輝ける先輩達 第2回

戦後大衆文化の旗手(NO.2)

芥川賞作家 「柳生武芸帳」

五味 康祐氏 (中40回)


中学時代の五味氏

<「武芸帳」は「宮本武蔵」より格が上>
平成11年8月5日朝日新聞(夕刊)の「夏の読書特集」欄に、文芸評論家秋山駿氏が次のように書いている。
”私は五味康祐の『柳生武芸帳』を時代小説の戦後傑作の第一に推す。星の数ほども無数にある時代小説の中で随一の傑作であると思っている。吉川英治の宮本武蔵よりずっと格が上であると思っている。これは三島由紀夫さんも賛成してくれた。“
 秋山氏はやはり昨年新たに刊行された文春文庫「柳生宗矩と十兵衛」のあと書きで”五味氏の時代小説はいわゆる凡百の歴史小説などよりずっと上にあるものだ。“と書き、その理由として、何よりも文体がよい。そして剣に生きる武士の心情や剣に泣かされる心の心事を描いていかにも思い入れが深い。
 剣を中心に日本人は独自の心性を形成してきた。そういう日本的な独自の心性の細部が五味氏の描く断片や行間のあちこちから気韻をもって甦ってくることである。これこそ大きなことだ。
と書いている。

<「武芸帳」は情報戦争の見本帳>
 また平成10年12月号「新潮45」にドイツ文学者池内紀氏が、もはや戦後ではないという時代(昭和30年代後半)から、書きつがれたこの剣豪小説には現代人(平成)の生態が描かれている。
「柳生武芸帳」は昭和30年代の読者にとっておもしろかったと同じようにいまの読者にもおもしろい。「柳生武芸帳」は情報戦争の見本帳であると書いている。
 また池内氏は五味の芥川賞受賞作品「喪神」に描かれた剣豪幻雲斎について、これまでの剣豪たとえばおそろしくストイックな吉川英治の宮本武蔵などと180度ちがっており、その禁欲主義と精神主義を嘲笑するかのようだ。五味は短編一つで戦後の時代小説のプロトタイプをつくりあげたと書き、さらに武芸帳について昭和30年代の読者はある種ひそやかな予感を感じながら読んだのではあるまいか。だからこそむやみにややこしく、およそ「小説」としての結構を逸脱していながらずっと人気を失わなかった。現在の読者は予感ではなく確認をたのしく思いながらこれを読む。40余年の歳月が読み手の背景を変化させた。ここには今日的な情報時代の生態がこれ以上ないほどあざやかに描かれている。とも書いている。

<世評が高い音楽評論>

 なお五味には小説とともに、これも浪漫性と日本的優情とをその底流とする音楽評論集「西方の音」「天の声」がありこれも亦世評が高いことを付記しておきたい。
 「ゴジラ」の田中友幸と「武芸帳」の五味康祐。この二人はまさに戦後半世紀以上を通じて大衆の中に生き続けた、文字通り20世紀後半の大衆文化の族手であった。


「柳生武芸帳」

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